Vol.81 Sep./Oct. 2023

Vol81_Hyoshi
特集◎中国との距離をはかる世界

座談会
集権化で露呈した「社会主義市場経済」の限界
新型コロナの3年間を経て、習近平氏への権力集中が進む中国。しかしトップダウンの統治は、社会の実情に合わせた柔軟な政策調整を難しくしている。既得権益層である中国共産党は、構造改革とは異なる道を歩みつつある。
阿南友亮(東北大学)
益尾知佐子(九州大学)
内藤二郎(大東文化大学)
川島 真<司会>(東京大学)

米中対立で「少数国間」化する世界-「多国間主義」の力は活かせるか
米中対話の気配はあれど、対立構造は変わらない。相互に自律志向を強める中、多国間主義は弱まり、二国間・少数国間での協力枠組みが活発化している。だが、新興国を自由主義の原則に引き寄せるため、先進国は、多国間秩序形成に深くコミットするべきだ。
佐橋 亮(東京大学)

ユーラシア秩序の再編と「陸の中国」
中国の海洋進出に対し、西側の抑止体制は整備されつつあるが、「陸への進出」はあまり注目されていない。親密化する中ロ関係を踏まえ、中国は不安定化・多極化が進む中央アジアにおいて、経済のみならず安全保障分野でも、影響力拡大を模索している。
青山瑠妙(早稲田大学)

台湾海峡・深刻化するグレーゾーン事態-習近平の「統一促進」と蔡英文政権
中国の対台湾工作は「グレーゾーン事態」をもたらし、外交、経済的威圧、偽情報流布などの攻勢が強まる。教育・啓蒙など官民で耐性を高める台湾は、平時から有事へのシームレスな対応能力を強化する。同様の問題を抱える日本は、台湾との対話が可能だ。
福田 円(法政大学)

インド多国間外交 中国との距離感
国益の最大化を図るインドが展開する全方位外交。そのインドにとって中国は重要なファクターだが、両国の間には対立の種も存在する。グローバル・サウスの主導権争いも進むなか、インドはどのように多極化が進む世界に関与するか。
笠井亮平(岐阜女子大学)

新興大国ブラジル その多国間主義と中国-「自律した多国間主義」の模索
国家の自律性と多極化を目指してきたブラジルだが、中国との経済・文化などでの密接な関係性は、ルラ大統領の就任によってどう変わるのか。米国の覇権を望まず、自律した存在であろうとする「南米の雄」の理論と、対中国の戦略を読み解く。
舛方周一郎(東京外国語大学)

欧州 経済的自立戦略としてのデリスキリング
米国流のデカップリングとは一線を画した、欧州主導の対中アプローチとして注目されるデリスキリング。分野を絞った規制強化が特徴だが、その具体的な取り組みから、EUの狙いを読み解く。
林 大輔(武蔵野学院大学)

中東で仲介外交に意気込む中国
「中国外交の成果だ」。米国の覇権に代わって、これから「新中東」が出現すると中国国内は沸いた。果たして中東で「和解のドミノ」は続くのか。だが、さらに影響力の強化を狙う中国は、この地域の複雑な現実に向き合う覚悟が求められる。
山口信治(防衛研究所)

豪中「冷めた関係改善」の内実
最良から最悪へ、2010年代以降の豪中関係は大きく変容した。海洋進出、政治的干渉への疑い、人権問題、そして経済的威圧。中国に対する豪州の懸念はいまも根強い。アルバニージー政権成立後、両国の関係は徐々に改善に向かうが、その定着への道のりはまだ遠い。
八塚正晃(防衛研究所)

米制裁で苦境の中国半導体産業
国家的優先順位のトップとされた半導体製造は、ムーアの法則さながらに急速に実力を伸ばしたが、安全保障を懸念する米国の強力な締め付けに遭って最先端のIC開発は困難になった。中国半導体とわが国の国益をどう考えるか。
山田周平(桜美林大学)

around the world

民選政権が直面するタイ政治の厚い壁
外山文子(筑波大学)

カンボジア 権力継承の行方
山田裕史(新潟国際情報大学)

BRICS首脳会議 議長国・南アフリカの役割
峯 陽一(同志社大学)

FOCUS◎中東秩序再編の力学

座談会
再編続く 中東情勢の現在地
米国の影響力後退を背景に、中国が関与を強めるなど、中東域内の力関係とプレーヤーの再編が起きている。湾岸・アフガニスタン・トルコ・北アフリカ…
域外アクターの役割も視野に、「中東」をめぐる論点を縦横無尽に論じる。
田中浩一郎(慶應義塾大学)
中村 覚(神戸大学)
江﨑智絵(防衛大学校)
小林 周(日本エネルギー経済研究所)

アメリカの後退で自由度高まる湾岸諸国
中東秩序の潮流を多極化と捉えて、外交政策を大胆に転換しつつある湾岸諸国。中でも湾岸諸国とイランの「代理戦争」からの離脱をいち早く模索したUAE、従来からの全方位外交が成果を生んでいるカタールを軸に、ミドルパワー外交のリアリズムを読み解く。
堀拔功二(日本エネルギー経済研究所・中東研究センター)

多角的外交を進めるイラン 中国接近の意図
サウジとの国交回復の仲介、上海協力機構への参加。イランの中国との関係強化は世界を驚かせている。だが、地政学的位置や列強からの干渉の歴史から、その外交姿勢は特定の勢力に与しなかった。今後、中国との関係は、イラン核合意はどうなるのか。
青木健太(中東調査会)

司法改革を強行するネタニヤフ政権の自縄自縛-宗教右派台頭に揺れるイスラエル
ネタニヤフ政権が強硬に進める司法改革、入植者の急増に伴い緊張の度合いが強まる西岸情勢。イスラエル社会を分断するこのような状況は、宗教右派の政治的台頭がもたらした現象といえよう。その結果、国内の対話の回路は失われつつある。
鈴木啓之(東京大学)

◎トレンド2023

「政経分離」鮮明に ASEAN首脳会議-実利に傾斜、安保議論は素通り
ミャンマー問題、南シナ海領有権問題。直面しているはずの問題をASEANは棚上げした。コロナ禍で傷んだ経済立て直しを優先したのだ。しかし、ミャンマーにクギを刺せる体制は整え、外交デビューの李強首相に意見するしたたかさは健在だ。
地曳航也(日本経済新聞)

分裂回避を優先させたG20サミット
議長国インドの主導で、難航が予想された首脳宣言は初日に採択される異例の展開に。ウクライナ進行開始後、フォーラムとして課題解決機能の弱体化が懸念されるG20において、日本及びG7が協力できる余地は小さくない。
古城佳子(青山学院大学)

ニジェールの政変と揺れる西アフリカ情勢
2020年のマリ、22年のブルキナファソに続き、今年7月、ニジェールで軍事クーデターが発生した。イスラーム主義武装勢力に対抗する国際的支援の枠組みが崩れ、ワグネルが活動するなどロシアの影響力が拡大した。しかしニジェールの政変は、構図が大きく異なる。
佐藤 章(ジェトロ・アジア経済研究所)

日本の国際平和協力-今こそ再始動のとき
日本のPKOは、いま大きな岐路にある。要員派遣が減少した上、日本を取り巻く安全保障環境の悪化に伴い、世界の安定より日本の安全、国連より同盟という志向が強まっている。ポスト冷戦期の終わりを見据えたPKOの意義と手法とは何か。日本の国際平和協力の実務責任者が提言する。
加納雄大(内閣府国際平和協力本部)

小倉から長崎へ 8月9日原爆投下の真実
あの日、米軍機は第1目標の小倉を回避して長崎に向かった。上空の視界不良が理由だが、それは八幡製鉄所からの「煙幕」によってつくり出されたものだった。その真相を、当事者のインタビューをまじえて、明らかにする。
三山秀昭(広島テレビ顧問)

連載

外務省だより

駐日大使は語る9
「広島アコード」で具現化する協力 日英関係は新たな時代へ
ジュリア・ロングボトム(駐日英国大使)

インフォメーション

外交極秘解除文書12
体制転換進める東欧諸国 日本の支援と国際秩序形成への関与
-1989年12月 海部訪欧に向けた「小和田メモ」
武田 悠(広島市立大学)

ブックレビュー
小川浩之(東京大学)

訳者に聞く
比較政治の視点から 中国の制度の意味を読み解く
加茂具樹(慶應義塾大学)

新刊案内

英文目次

編集後記

イン・アンド・アウト