Vol.86 Jul./Aug. 2024

Hzoushi_Vol.86特集 欧州は国際秩序を担えるか

欧州の戦略的自律は可能か-両極化する欧州の内憂外患
国際秩序の安定のために欧州の果たす役割とは。
・NATO首脳会議の隠れた議題は「トランプ2・0」への対応
・フランスに根強い戦略的自立の思考も、他国は冷ややか
・深刻なのは欧州における国内政治の両極化
細谷雄一(慶應義塾大学)

駐日EU大使インタビュー
安全保障からDXまで 重層化する日EU協力
今年は日本にEU代表部が設置されてから50年。国際秩序安定化への日本とEUの役割を、大使が語る。
・欧州には「内向き」になっている余裕はない。
・欧州とインド太平洋は不可分の安全保障領域
・注目分野はサプライチェーン強靭化、DX、AI
ジャン=エリック・パケ(駐日EU大使)

座談会
NATOが進めるウクライナ支援の「制度化」-トランプ再選を見込んだ欧州の戦略
欧州の自国優先主義とトランプ・ファクターに備え、NATOは積極的かつ恒常的なウクライナ支援を打ち出した。
・欧州議会選や主要国の選挙を経て、支援継続の大勢は変わらず
・NATOはトランプ再選前に支援の制度化を急ぐ
・停戦案「西ドイツ・モデル」の課題と可能性を探る
広瀬佳一(防衛大学校)
宮下雄一郎(法政大学)
森井裕一(東京大学)

欧州市民の政治意識とEUの行き方-2024年欧州議会選挙と争点の変化を追う
6月の欧州議会選挙の投票行動から欧州市民の意識を探ることで、今後のアクターとしてのEUの方向性を読み取る。
・争点からは経済・移民問題が後退し、環境問題は堅調
・仏独は右派伸長と同時に左派も伸びており多極化の様相
・EUの環境主義は弱まるか。ウ戦争への対応は要注意
中井遼(東京大学)

フランス総選挙 なぜ極右は勝てなかったのか
国民議会選挙1回目の投票で、第一党への期待が高まった極右勢力、国民連合(RN)は第3勢力に甘んじた。
・RNは移民排斥に加え、社会政策を掲げて支持を拡大
・極右への忌避間をあぶり出した第2回投票制
・両極の台頭と中道の埋没、真の敗者はマクロン大統領
吉田徹(同志社大学)

英国のEU離脱はイギリス人を幸せにしたか-総選挙とブレグジットを総括する
保守党大敗の原因は、ブレグジットによる支持層の多様化が党内対立を激化させたことにある。
・労働党も、脱ブレグジットの手を縛って選挙戦を戦った
・スターマー新首相は難しい政権運用を迫られる
・国際情勢の荒波の中で、民主主義の成果が問われる
池本大輔(明治学院大学)

民主主義と安全保障の「砦」 エストニアの戦略
ソ連による半世紀の占領のくびきから逃れた、エストニアをはじめバルト三国の生存戦略は。
・バルト三国の安全保障環境はどうなっているか
・ロシアのサイバー攻撃に対する強靭性の確保はいかに
・ウクライナ侵攻以降は、欧州安全保障議論の先頭に
保坂三四郎(エストニア国際防衛安全保障センター)

対談
中国に逡巡する欧州-政治的警戒と経済的機会の間で
欧州の対中認識は、2020年代に入り厳しさを増す。しかし内部から観察すると、各国それぞれの事情が透けて見える。
・中・東欧においても「一帯一路」への高揚感はほぼ消えている
・中国は「ハンガリーXEV」に投資を集中、現地生産化を進める
・欧州の対中姿勢は揺れており、日本と一枚岩とは言えない
高原明生(東京女子大学)
𠮷岡桂子(ブダペスト・コルヴィヌス大学)

 
FOCUS◎インド総選挙と南アジア勢力地図

「モディの約束」の蹉跌-与党辛勝の要因と瀬戸際に立つ民主主義
メディアや野党を抑圧した選挙自体は公正に行われた。なぜ与党は議席を減らしたのか。国際関係への影響は。
・一部の州で与党は大幅に議席減、全国的には得票率が微減
・連合政治が復活し、地域政党が政権運営を左右する
・「民主主義」は何とか維持、西側との連携可能性は残された
溜和敏(中京大学)

南アジア島嶼国 親「印・中」の実態
政権交代のたび「親印・親中」が変わるように見える南アジア島嶼諸国。だが、その先入観は捨てるべき。政治・外交・地政学的要素など、多角的にこれから国々の外交を見据えていきたい。
荒井悦代(ジェトロ・アジア経済研究所)

焦点のアフガニスタン タリバン統治の3年間
治安の確保に努める一方、女性の人権を著しく制限する統治。今後の政権の統治は、そして国際テロ組織との関係性は。
・イスラーム法と部族的支配による統治に広がる反感
・タリバン政権と盟友のアルカイダ
・反タリバンを掲げるイスラーム国ホラサン州(ISKP)を抑えるには
青木健太(中東調査会)

 
天皇皇后両陛下の英国御訪問
天皇皇后両陛下の英国国賓御訪問を終えて
英国国王陛下からの招待を受け、6月22~28日に英国を御訪問された天皇皇后両陛下。駐英大使として御訪問に携わった林氏が、その意義を読み解く。
林肇(駐英国大使)

 
◎around the world

米国の反ユダヤ主義
中井大助(朝日新聞)

メキシコ新大統領が直面する課題
馬場香織(北海道大学)

BRICS加盟に踏み出すマレーシア
谷口友季子(ジェトロ・アジア経済研究所)

 
◎トレンド2024

銃撃から党大会へ
大統領選の流れを変えたトランプの七日間
トランプ前大統領に対する銃撃事件は、本人、共和党、大統領選挙にそれぞれ大きな影響を与えた。
・共和党は結束強まる。副大統領にはバンス氏を指名
・指名受諾演説は「団結」を訴えつつ、いつものトランプ節も
・民主党は深刻。逆転勝利には挙党体制がカギ
西山隆行(成蹊大学)

ガザ衝突 ICC「逮捕状」で国際法を執行できるか-国際刑事司法と逮捕状制度の機能
国際刑事裁判所(ICC)による逮捕状はどのような制度なのか。その実務を分析する。
・「パレスチナ事態」はかねてICCの調査対象だった
・ICC逮捕状による身柄拘束は各国の判断に委ねられる
・逮捕状は、名宛人への各国の対応に影響を与えている
越智萌(立命館大学)

イラン大統領選 改革派の当選と革命体制
7月5日の決選投票で勝利したペゼシュキアン氏。ハタミ政権以来の改革派大統領に期待が高まる。
・内政の注目は女性の服装とインターネットへの規制緩和
・欧米からの制裁解除を目指しつつ、反イスラエル路線は継続へ
・国内の格差拡大で体制の求心力は低下
佐藤佳奈(日本エネルギー経済研究所中東研究センター)

南アフリカ総選挙 与党ANC敗北の政治的影響
与党・アフリカ民族会議(ANC)が過半数割れ。その原因とは何か。連立政権GNUは機能するのか。
・汚職、極左、民族主義と決別した末の「敗北」
・新自由主義を基本的経済政策とするスタンスは変わらず
・連立相手の民主同盟による腐敗への監視が期待できる
白戸圭一(立命館大学)

G7プーリア・サミット
課題を巧みにさばいたメローニ伊首相
ガザ紛争、ウクライナ戦争、難民問題。G7首脳で最も政権基盤が強固なメローニ首相の指導力が光った。
・開催地選定には経済のてこ入れで右派支持を狙う
・安全保障問題では右派の立場より共同歩調を優先
・難民政策では外交課題をからめた政策を実行
伊藤武(東京大学)

頼清徳新総統と台湾の「民意」
就任演説では現状維持と同時に台湾アイデンティティが強調されたが、台湾の民意はどこに。世論調査から探る。
・世論は与野党対立より権力分散による抑制を求める
・選挙の第三極、民衆党の支持が大きく落ちた
・独立を望むが中国との戦争回避を意識して「現状維持」
渡辺剛(杏林大学)

シンガポール 20年ぶりの新首相誕生-「庶民派宰相」は新たな国家像を示せるか
ローレンス・ウォン氏が第4代首相に就任したが、近年、これまでのシンガポールの「成功モデル」が揺らいでいる。
・豊かなシンガポールで格差問題が深刻化
・経済面では米中間でバランスをとるが、安全保障は米国と協調
・「創業家」リー家が退場し、新たな統治のあり方が求められる
田村慶子(北九州市立大学)

日本とカナダ 関係深化の戦略性
巨大な北米市場の一角を占め、食料や天然資源も豊富なカナダに対し、近年、日本企業の投資熱が高まっている。EVを中心とした希少資源や先端技術分野での実績を踏まえ、経済安全保障と気候変動が交錯する戦略領域における、二国間協力の進展とその意義を読み解く。
山野内勘二(駐カナダ大使)

国連未来サミットに向けて 人間の安全保障を考える
「人間の安全保障」を国際社会の共通理解とするために、日本は主導的な役割を果たしてきた。パンデミックや地政学的対立で世界が分断される現在、日本への期待はさらに大きい。国連でこの問題をリードする高須氏が、九月の国連未来サミットに向けて展望する。
高須幸雄(国連事務総長特別顧問)

 
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若林正丈(早稲田大学)

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EUの多様性・重層性・先進性を探る
武田健(青山学院大学)

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