巻頭インタビュー
「地球あたりの者でござる」
狂言のまなざしでオリンピック・パラリンピックの精神を描く
野村萬斎(狂言師)
特集◎混迷深まる北東アジア今号では、北東アジアにおける諸課題の中でも、香港、台湾、北朝鮮、ポストINF時代の軍縮・軍備管理、日韓関係に焦点をあてて、考察を深めた。今まさに進行中の香港市民による抗議活動は、反「逃亡犯条例」の枠を超えて、「一国二制度」の内実、あるいは香港のあり方そのものを問う、深刻かつ長期的な対立の構図を、中国政府に、そして国際社会に突きつけている。年明けに総統選挙を控える台湾では、米国の対台湾コミットメントが強まる現状とその影響を分析した。香港と台湾という中国の「周縁」からの問題提起は、中国の政治観・国際秩序観と鋭く対立する要素を孕んでおり、これらをどのように平和裏に、かつルールにかなう形で解きほぐしていくかは、国際社会が負った重い課題である。
加えて、北朝鮮の非核化をめぐる米朝交渉、さらにはINF全廃条約が失効するなかで、この地域の新たな軍事状況に対応した軍縮・軍備管理について、いかに事態を動かしていくかが問われる。また、悪化する日韓関係についても、個々の論点は二国間
関係に起因するが、その背景に韓国における米中重視(相対的
には日本の後景化)の国際秩序観がある。
米中対立を主旋律としながら、北東アジアにおいては、さまざまな問題が絡み合っている。複雑な連立方程式を解き明かすように、個々の事象とその背景にある構図を丁寧に読み解きたい。
《全文公開》香港デモ 暴力の論理——米中を巻き添えにする「絶望の戦術」とは
林鄭月娥行政長官の条例撤回表明にかかわらず、香港ではデモが続き、警察との衝突も絶えない。だが、香港のデモ隊は単なる「暴徒」ではない。時に平和的に、時に暴力に訴えるデモは、効果が冷静に測定され、香港人の支持を得ている。
倉田 徹(立教大学)
台湾への関与強める米国の戦略
冷戦構造の残滓として、米中台それぞれが、異なる「一つの中国」概念を持つ中台関係。
トランプ政権の台湾関与強化は変化を生むのか。米中対立、香港デモ、日米韓対立の背景のもと、
揺れる中台関係の現在と将来を展望する。
ボニー・グレイザー(米戦略国際問題研究所)
《全文公開》データから読み解く米・台の緊密度
米中関係や香港情勢が緊張する中、台湾の地政学的地位はかつてないほど高まっている。台湾総統の外遊、トランジット地やアメリカが台湾に売却した武器などを分析すると、関係性と将来が見えてくる。
門間理良(防衛研究所)
マカオから見た香港デモと「一国二制度」
一九九九年に中国に主権が返還され、五〇年間の現状保全が取り決められているマカオ。香港と異なり平静を保っているのは、事実上中国の支配に服し、カジノの特権と引き換えに「北京を刺激しない」態度にある。
塩出浩和(城西国際大学)
資料:中国は敵ではない(ワシントン・ポスト紙7月3日付掲載 公開書簡)
停滞する非核化プロセス 北朝鮮との暫定協定を進めるべし
北朝鮮の非核化を求める米朝交渉は停滞している。近隣諸国には、ICBM廃棄が先行され、核兵器廃棄や中短距離弾道ミサイルの制限は後回し、という懸念も募る。事態を動かすために、現実的なアプローチが必要ではないだろうか。
ロバート・アインホーン(ブルッキングス研究所)
「ポストINF条約時代」の東アジア軍備管理
八月に失効したINF条約。冷戦を終わらせた画期的条約だが、米ロ関係の変容、条約外の国々による弾道ミサイル開発・配備など状況は変わった。東欧、東アジアの新しい軍備管理をどうする。
高橋杉雄(防衛研究所)
日韓関係の「出口」はどこにあるか
輸出管理強化からGSOMIA終了へと、エスカレートが止まらない日韓の対立。韓国側から見た世界——日本・米国・中国・北朝鮮との関係性を読み解くことが、新しい関係性」を模索するよすがとなる。
西野純也(慶應義塾大学)
《全文公開》日本の対韓国輸出管理強化と経済的影響
日本政府が韓国に対して行った輸出管理の厳格化、安全保障上の輸出審査優遇の「ホワイト国」除外は密接な関係の両国経済と産業にどんな影響を与えるか。韓国によるWTO提訴表明までの動きをまとめた。
中島朋義(環日本海経済研究所)
試練を迎えたG7-ビアリッツ・サミットの成果と日本外交
まとまった首脳宣言がだせず、「反保護主義」のメッセージが外された米欧妥協の色濃い結果に。
香港への言及の舞台裏やロシア参加問題、日米貿易交渉などの裏舞台を明かし、曲がり角のG7サミットの将来を展望する。
松下正和
《全文公開》>TICAD7はアフリカ経済統合の呼び水になるか
開発援助からビジネスへ軸足が移るTICAD。一方で紛争の予防、仲介、調整など開発協力のニーズも、また依然として存在する。
日本が着実にアフリカに根を張る戦略とは。
遠藤 貢(東京大学)
ボルトン更迭後のトランプ外交
ホワイトハウスにおける安全保障政策の司令塔ボルトン氏が、一年五ヵ月務めたその地位から去った。そのスタイルを共和党外交の系譜のなかに位置づけるとともに、ボルトン路線の功罪を考える。
小谷哲男(明海大学)
アマゾン森林火災とボルソナーロ政権
「ブラジルのトランプ」ボルソナーロ大統領は環境保護を求める国際世論に開発の正当性を強弁して噛みつくが、実は毎年くり返されている大火災を前に苦しい国内パフォーマンスを迫られている。
岡田 玄(朝日新聞)
スーダン途上の民衆革命――三〇年続いたアル・バシール体制を倒した政権交代の意義
バシール政権を倒したスーダンの政権交代は非暴力的大衆行動が貫かれ成し遂げられた。ソーシャルメディアによる自発的参加、祝祭的空間が、開かれたナショナル・アイデンティティを作り出した。
栗本英世(大阪大学)
対談
ユーラシア国際秩序を揺るがす二つの港湾開発
——パキスタン・グワーダル港とイラン・チャーバハール港
片や「一帯一路」の中核をなす「中国パキスタン経済回廊」の象徴たるグワーダル港。片や中パと歴史的に対立してきたインドが関与するイランのチャーバハール港。一見対抗的にみえる二つの港湾開発だが、そこには「インド対中国・パキスタン」の構図では読み解けない、複雑に絡んだ各国の国益が透けて見える
青木健太(中東調査会)
笠井亮平(岐阜女子大学)
《全文公開》>ジョンソン首相は「合意なき離脱」に向かうか
メイ首相の折衷的なEU離脱策が失敗し、離脱派、残留派ともに、より急進的になってコントロール不能に陥ったイギリス議会。ジョンソン政権のシナリオはどうなる。
池本大輔(明治学院大学)
EU新人事をドイツからみる
―意思決定過程の機能不全とポスト・メルケル体制
次期EU委員長に、ドイツから半世紀ぶりに就任したフォンデアライエン氏の仕事はブレグジットから。既存政党の支持低落によるリーダー選出プロセスの変容は、EUを実質的に支えるドイツでも同じだ。「ポスト・メルケル」のEUはどこに向かうのか。
森井裕一(東京大学)
ロシアと欧州「冷たい平和」
ーウクライナ危機後のロシア勢力圏
冷戦崩壊で「東側」は消滅し、西側との境界が接近したことに、ロシアは強い「脅威」を覚えた。時間軸・空間軸からその経緯を読み解くと、各国不満勢力への支援やフェイクニュースなど、「ロシア勢力圏」形成の動機と構図が見えてくる。
小泉悠(東京大学)
追悼・天野之弥IAEA事務局長
「平和と開発」で原子力の新たな可能性を拓く
市川とみ子(国際原子力機関)
連載
数字が語る世界経済
伊藤さゆり(ニッセイ基礎研究所)
Around the World
ジャカルタ遷都 その実現性は
川島進之介(NHK)
特別連載企画
歴代外務次官が語る平成日本外交史
イラク戦争の本質は大量破壊兵器と北朝鮮
日米戦略対話で米国に国際協調を促す
竹内行夫
キャリアの話を聞こう
井浦愛美(在デンバー日本総領事館公邸料理人)
外交最前線11
大麻をめぐる国際社会の動向
-カナダ「娯楽使用」合法化の背景と影響
麻薬に関する国際条約に反する形で、カナダが大麻の娯楽使用の合法化に踏み切った。
その「真意」は大麻による健康被害の防止だが、国際社会の評価と日本の対応を考える。
松倉裕二(元ウィーン国際機関日本政府代表部)
ブックレビュー
梶谷懐(神戸大学)
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