巻頭インタビュー
安倍長期政権の世界史的遺産 ―自由主義的な国際秩序へのリーダーシップ
兼原信克(前内閣官房副長官補)
特集◎アメリカ大統領選挙と世界
バイデン政権誕生なら米国のアジア政策は積極化
群を抜く外交経験の蓄積がある、「バイデン大統領」が誕生すれば、米国の対中政策は変わるのか。同盟国やアジア諸国との協力はどうなるのか。オバマ政権の東アジア政策を担った筆者が展望する。
カート・M・キャンベル(アジア・グループ会長兼CEO)
インド太平洋地域の安定は日米の肩にかかる
中国による「一帯一路」構想や政治的意図に基づく情報技術開発とインフラ投資を前に、インド太平洋地域の秩序をめぐる競争は激化している。安倍・トランプ政権期の協力の枠組みを維持・発展させられるか―。日米はいま、岐路に立っている。
ナディア・シャドロー(ハドソン研究所)
トランプ政権と日米同盟-四年間の成果と課題
日米同盟は戦略目標や価値の共有へと深化したが、北朝鮮によるデカップリング、日米韓関係、そしてトランプ大統領の負担増要求などで、同盟そのものの変容に直面している。今後も同盟が有効であり続けるために何が必要か。
神保 謙(慶應義塾大学)
アメリカ大統領選挙二つの現実と二つの国民
共和党・民主党それぞれの支持者たちは、異なるメディアを通じた「フィルターバブル」の中にいる。同じ現象でも解釈が異なるため候補者の致命傷になりかねない。コロナ禍・BLMの中でどんな立ち位置を取るか。トランプ「どんでん返し劇場」の再来は、そこにかかっている。
久保文明(東京大学)
鼎談
分断を固定化させる構造変化が起きている
アメリカはかつてないほど分断が進んでいる。人口変動がもたらす白人のマイノリティ化、SNSが開放した分極化した言論など、社会のありようを構造と現象の双方から読み解く。
渡辺 靖(慶應義塾大学)
西山隆行(成蹊大学)
金成隆一(朝日新聞)
「共和党系反トランプ運動」と支持基盤のギャップ
共和党有力者がバイデンを支持する「反乱」が起きた。だが、トランプ支持層は揺るがない。民主党は「反トランプ」で今回選挙は一枚岩だが、両陣営とも対立を煽り、それを燃料に結束を狙うため、どちらが勝っても国際的合意から離れる政権になるだろう。
渡辺将人(北海道大学)
好調米経済を揺るがした党派対立とコロナ-トランプ政権下の米国経済と大統領選挙
2017年の税制改革で米国経済を活性化させ、その後は対中制裁など通商面での施策に傾注したトランプ政権。好調な経済と裏腹に、民主党との対立は激しさを増した。コロナ禍における経済再建策で、どこまで党派政治を抑えられるか。
橋本政彦(大和総研)
労働者重視で支持拡大ライトハイザー通商戦略のしたたかさ
トランプ政権の通商政策を取り仕切るライトハイザーUSTR代表。90年代以降のグローバル化礼賛路線とは一線を画し、労働者保護や中国牽制の視点から強硬策を繰り出すその戦略は、共和党支持者のみならず、民主党の一部を包含する説得力がある。
青山直篤(朝日新聞)
米大統領選挙とグローバル・イシュー
トランプとバイデン、両者の行動原理は、孤立主義と介入主義が一体の「アメリカニズム」の振り子にすぎないのではないか。その一方で、自治体や企業、市民社会がアイデアを元に進めるコンストラクティヴィズム的枠組みが注目される。
毛利勝彦(国際基督教大)
米国への恐怖と怒りが中国を動かす
いち早くコロナからの立ち直りを見せた中国。自国の発展の成果に誇りを抱く人々は、国と団結して「国際秩序を壊す」米国への備えを固め始めた。衝突を最小化する国際秩序のルール整備は可能か。
益尾知佐子(九州大学)
「反米親中路線」を止められないプーチンのジレンマ-それでもロシアはトランプ再選を望む
憲法改正でさらに人気を確保し、権力基盤を固めようとするプーチン大統領にとって、トランプ大統領は「くみしやすい」相手だが、自らの求心力確保のために「反米親中路線」を止めるわけにはいかないジレンマがつきまとう。
兵頭慎治(防衛研究所)
イスラエル・UAE国交正常化合意の衝撃-変わるのか中東の勢力地図
突然発表された国交正常化合意。サウジアラビアが後を追うとみられるが、親アラブ勢力は反発を強めている。果たして、中東は新たな線引きで二分されるのか。米大統領選挙は中東情勢をどう動かすか。
中村 覚(神戸大学)
FOCUS◎コロナ「共存戦略」の諸相
EU共通債合意 再結集への第一歩
7月17日、欧州理事会は険悪な雰囲気で幕を開けた。コロナ復興をめぐる倹約国と南欧や中・東欧諸国との対立。「法の支配」をめぐるポーランドとハンガリーの扱い-。EUの結束と危機対応能力が問われた場面で、合意をめぐる各国の思惑を読み解く。
東野篤子(筑波大学)
いまこそ脱石油・再生可能エネルギーへの転換を-コロナ時代のエネルギー戦略
コロナ禍において、原油の需要減少・価格下落が続くなか、再生可能エネルギー投資は安定している。欧州の「グリーン・ディール」がそうであるように、エネルギー戦略は経済復興戦略そのものである。対応が遅れた日本に残された時間は多くない。
平沼 光(東京財団)
Around the World
国安法で急変する香港のいま
福岡静哉(毎日新聞)
トレンド2020
掃海艇派遣からイージス・アショアまで-自衛隊から見た日本の安全保障環境と日米同盟
五年にわたり自衛隊最高位の統合幕僚長を務めた河野氏は、現場から中枢までを知り尽くし、安倍首相の信頼も厚かった。退官後のいま、自らの経験から語る安全保障論。
河野克俊(前統合幕僚長)
ルカシェンコ大統領の命運握るロシアとの「連合国家」
大統領選挙をめぐり混乱続くベラルーシ。追い詰められたルカシェンコ大統領は、ロシアの後ろ盾を期待するが、プーチン大統領からは両国の「連合国家」化を求められる。それはベラルーシの国家主権を揺るがす事態となりうる。
服部倫卓(ロシアNIS経済研究所)
プーチン体制長期化が示すもの-個人支配化とその問題点
一貫して高い支持率のプーチン20年の治世。背景には経済の好調があり、強力な与党体制構築ののち、彼は個人支配システムを作り上げた。2024年までの「任期延長」には、後継者難で辞めるに辞められなくなった苦悩もにじんでいる。
大串 敦(慶應義塾大学)
WTOを立て直せるか-次期事務局長に問われる改革のリーダーシップ
多国間枠組みによる通商問題解決を嫌うトランプ政権の抵抗で、WTOは機能不全に陥った。11月に行われる新事務局長選挙はどうなるか、はたして当選後、改革し立て直すことができるか。そこで日本は、どんな役割を果たせるのか。
川瀬剛志(上智大学)
追悼 台湾政治史の中の李登輝総統-1988~96年の自由化・民主化改革
今年7月に死去した李登輝・元台湾総統。台湾に自由と民主主義をもたらした政治の巨人だが、総統としての歩みは決して平坦ではなかった。同時代的にこの改革プロセスを体験してきた、台湾歴史学界の重鎮・薛教授による李登輝論を、二号にわたり、詳細な訳注を付けて紹介する。今号は、前史としての蔣経国時代末期から、第八期総統に就任し、動員戡乱時期を終結させるまでを描く。
薛化元(台湾・国立政治大学)
日本こそが世界の開発学をリードする-JICA開発大学院連携事業の理念と戦略
非西洋国家で初めて近代化に成功し、戦後はODAを通じ開発途上国の発展に貢献-。開発途上国のリーダーたちには、ぜひこの経験を学んでほしい。日本の新たな国際貢献として、また魅力ある留学生戦略として、JICAの新事業が展開されている。
北岡伸一(国際協力機構)
連載
インフォメーション
数字が語る世界経済26
伊藤さゆり(ニッセイ基礎研究所)
外交最前線15
イラン政治のうねりの中で-深まる2国間関係、試される危機対応
角 潤一(外務省)
ブックレビュー
高橋和宏(法政大学)
いまを読む5冊
評者:
近藤重人(日本エネルギー経済研究所)
齊藤孝祐(横浜国立大学)
新刊案内
編集後記
イン・アンド・アウト