特集
9・11から10年後の世界と日本
そして世界は元に戻った
田中明彦(東京大学副学長)
あまりにも衝撃的だったアメリカ同時多発テロ。あの事件は世界の何を変え、また変えられなかったのか。さまざまな混乱の先に見えた、国際社会の「修復」の力を読み解く。
<9・11後の諸相>
〈中東〉「文明内」の衝突――自由と法の支配を希求するアラブ世界
山内昌之(東京大学教授)
9・11は「文明の衝突」をもたらさなかった。ビンラディンが煽った文明論的対立とは異なる形で生じた「アラブの春」が意味するものとは。
〈アメリカ〉いまだに決着をつけられない問い
三浦俊章(朝日新聞論説委員)
最大の当事者であるアメリカ。安全保障や自由な社会というアメリカ社会の根底にある前提に深刻な打撃を与えた。国内の分裂という底流のなかで、いま「あの事件」の意味をどれだけ正面から掘り下げて議論しているのだろうか。
〈アフガニスタン〉困難な自立への道のり――和解への課題と展望
東大作(東京大学大学院総合文化研究科准教授)
対テロ戦争の主戦場であったアフガニスタン。国際社会の必死の関与にもかかわらず、事態は依然として深刻である。国内の安定のためにいま必要なこととは。
日本のアフガニスタン復興支援
本誌編集部
復興の道は険しい。社会の和解、インフラの整備、人材育成など、一つひとつ積み重ねていくしかない。率先して取り組んできた日本の貢献を紹介する。
〈パキスタン〉ビンラディン殺害と反米気運
井上あえか(就実大学教授)
五月のビンラディン殺害の舞台となったパキスタン北西部。潜伏にはパキスタン軍の関与があったとされている。アメリカが求める「テロとの戦い」と、後背地としてのアフガニスタンの重要性の板ばさみとなった、パキスタンの苦悩とは。
〈欧州〉NATO新戦略概念にみる「二つの欧州」
広瀬佳一(防衛大学校教授)
11年ぶりに更新されたNATOの戦略概念には、中核的任務の筆頭として「集団防衛」が挙げられていた。この概念を手がかりに、脅威認識と対処手段をめぐる、西欧と中・東欧との差異を読み解く。
〈日本〉新たな脅威に備える体制を
宮坂直史(防衛大学校教授)
日本の対テロの取り組みといえば、自衛艦によるインド洋上の給油活動を挙げる人が多い。しかし、世界のテロの危険は依然として深刻な上に多様化している。日本のテロ対策は、むしろこれからが本番である。
特別企画
外相経験者インタビュー●日本外交の基盤は何か
2009年の政権交代から2年が経過した。自民党長期政権のなかで育まれた安定と停滞。民主党政権が切り込んだ新たな可能性へのチャレンジと混乱。建設的な批判と競争のなかで、党派を超えた日本外交の基本戦略は生まれるのか。
岡田克也(民主党)■核を現実的に論じられるときがきた
高村正彦(自由民主党)■ポピュリズムに抗するのが外交の要諦
前原誠司(民主党)■10年後を見据え、日米同盟を双務的に変えていく
町村信孝(自由民主党)■信頼という「資産」を失った民主党外交
インタビューを終えて
春原剛(本誌編集委員)
超党派で外交を探る道が見えてきた
トレンド2011
危機の中で進むユーロ圏財務省構想
田中素香(中央大学教授)
ギリシャ財政危機以降、通貨ユーロの存在そのものを危ぶむ声も聞かれるようになった。ユーロ存続に向けてEU首脳が取り組む財政・金融危機への対策強化策とは。
米国財政をめぐる対立は乗り越えられるのか
安井明彦(みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長)
ティー・パーティーの「暴走」に注目が集まったが、そもそも財政をめぐる対立は二大政党の根幹であり珍しい話ではない。なぜ、今回はここまでこじれたのか。対立を克服する環境は生まれるのか。
タイの安定を妨げる王室の政治利用
玉田芳史(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科教授)
タイはこれまでしばしば政情が不安定に陥ってきた。しかしその対立構造が詳しく知られているとは言い難い。タイの王室、政党そして軍の動きを分析することにより、政情不安定の原因が見えてくる。
ODA戦略 対GNI比0・1%で世界を変える
植野篤志(外務省前国際協力局政策課長)
日本のODA額は減少傾向にある。世界の平和と繁栄のなかに生きる日本の責務とは何か。「身の丈にあった」国際協力を超えるメッセージを考えるヒントがここにある。
FOCUS
成長戦略としての自由化
地域主義が生み出す21世紀型国際分業のダイナミズム
木村福成(慶應義塾大学教授)
20世紀以来世界経済の発展を支えてきた「貿易自由化」は、21世紀に入って産業構造の変化によりその必要とする領域と意義を一段と拡大している。FTA・EPAをはじめとする地域主義は現在その自由化を進めるのにもっとも有力な政策手段であり、日本も積極的な対応をせまられている。
TPP交渉に早期に参加すべし
山下一仁(キャノングローバル戦略研究所研究主幹)
日本はTPPとどう向き合うべきか?様々な意見が交わされるなか、TPP交渉に参加することによって、より日本の利益を反映させる可能性を模索する。
鼎談●これが日本農業の生きる道だ
川島博之(東京大学大学院農学生命科学研究科准教授)
昆吉則(月刊『農業経営者』編集長)
鈴木宣弘(東京大学大学院農学生命科学研究科教授)
昨年突如浮上したTPP問題。しかし、自由化自体は日本にとって数十年来の課題である。その焦点である農業について、多角的に論じる。
連載
巻頭随筆
ノルウェー連続テロの政治的意味
小川有美(立教大学教授)
失われた20年の功罪――ソマリア内戦と飢餓
瀬谷ルミ子(特定非営利活動法人日本紛争予防センター事務局長)
Cartoon Says it all. マンガをみれば世界がわかる
ソマリア大飢饉/カダフィ政権崩壊
西川恵(毎日新聞特別編集委員)
マーケットの眼
ユーロ危機に揺れる欧州。しかし問われているのは先進国の政治そのものである。
伊藤洋一(住信基礎研究所主席研究員)
海風陸風
戦後日本の出発点を振り返る
猪俣弘司(在サンフランシスコ総領事)
史料が語る日本外交
新しい安全保障体制の模索と苦悩
楠綾子(関西学院大学准教授)
戦後日本の安全保障政策は、いかなる過程を経て形成されてきたのであろうか。米軍駐留をめぐる外務省の苦悩と吉田の決断が、公開された外交文書から明らかとなる。
20歳の助走
学生運動に揺れるキャンパスで育まれた好奇心が武器になった
長井鞠子(会議通訳者)
学生訪問記 世界に触れる
オヤジたちの国際貢献――地雷・不発弾処理にかける情熱
松尾和幸(日本地雷処理を支援する会副理事長・事務局長)
紛争終結がすなわち平和を意味するわけではない。そこに残された膨大な数の地雷・不発弾は、後々までその土地の人々を苦しめる。その状況を打破すべく、地道ながらエネルギッシュな活動を続ける「オヤジたち」がいる。
コトバの深層
テロリズム
本名純(立命館大学国際関係学部教授)
冷戦の終結を境にテロのあり方は大きく変わった。その実態を明らかにする。
Book Review
星野俊也(大阪大学大学院教授)
『スマート・パワー』ジョゼフ・S・ナイ・著
『インテリジェンス 機密から政策へ』マーク・M・ローエンタール・著
『インテリジェンスの基礎理論』小林良樹(こばやし よしき)・著
池内恵(東京大学准教授)
Beyond Terror and Martydom: The Future of the Middle East
Gilles Lepel
歴史との対話
「改革派」李鴻章がみた虚像としての日本
岡本隆司(京都府立大学准教授)
伝統を重んずる中国において、海外に眼を向ける「改革派」は常に少数派であり、異端者であった。近代において隣国日本と否応なく向きあわざるをえなかった「改革派」たちを規定したバイアスとは。