Vol.76 Nov./Dec. 2022

Vol.76_Hyoshi
特集◎習近平長期政権への条件

創られた危機感と「団結」-習体制は現実的課題と向き合えるか
末端の基層社会にまで統治と動員を及ぼす習政権は、「王朝」にもなぞらえられる。2049年/2035年の目標に向かって、異質性を排除しながらさらなる「団結」を求める政権の論理と手法、そこに孕む困難を読み解き、今後の日中関係を展望する。
川島 真(東京大学)

習近平派一色の新指導部-最高指導部政治局常務委員の顔ぶれ
10月23日、中国共産党中央委員会は習近平第3次政権を支える党中央政治局常務委員を選出した。全員が習近平総書記に近い人物。彼らが長期政権の担い手となるのか。
             李 昊(神戸大学)
 
座談会
権威なき「一強体制」がはらむ脆弱性
三期目に突入した習近平政権。毛沢東、鄧小平にならぶ習近平時代の到来を感じさせる。
しかし経済をはじめとする困難な課題への道筋は、まだみえない。
岡嵜 久実子(キャノングローバル戦略研究所)
鈴木 隆(愛知県立大学)
高橋哲史(日本経済新聞)
宮本雄二(元駐中国大使)

人民解放軍の「進化」とインド太平洋の安全保障
空母、強襲揚陸艦、ステルス戦闘機、ICBM。人民解放軍は装備を急速に充実させるのみならず、指揮系統や部隊構成の近代化も加速させている。当面、台湾周辺への展開が予測されるが、核戦力増強をはじめ、課題は複雑さを増す。
飯田将史(防衛研究所)

「個人化する権力」と人民解放軍-「習近平一強体制」下における党軍関係の変容と軍事的効率性
党が国家をリードする中国において、習近平はいかにして強くて(=さまざまな脅威に対応する)弱い(=指導者に忠誠を誓う)軍隊を構築しようとしたか。そのプロセスにおいて、党軍関係の「個人化」がはらむ緊張関係を読み解く。
林 載桓(青山学院大学)

地方・基層の統治からみた習近平体制
権力の重層構造とそれに伴う官僚組織の粗放性。広大な中国を統治するこのような土着的手法を毛沢東は否定し、反官僚主義を掲げた。社会主義イデオロギーで武装し統治の集権化を図る習近平三期目の挑戦は、果たして成功するのか。
小嶋華津子(慶應義塾大学)

「力とルール」で先端技術の武器化を防げ
長期の経済成長モデルから見れば、中国はいまだ新興国で、「覇権国」の条件を備えていない。覇権国対新興国という米中の戦略的競争関係が「エスカレーション」に陥らないための手当てが必要だ。
渡邉真理子(学習院大学)

ウイグル問題をめぐる人権・ビジネス・外交
各国の抗議に「国内問題」とする中国。人権状況への対抗手段として注目される国連人権委「ビジネスと人権に関する指導原則」。各国が自国の法制にビルトインすることで、人権を守る砦となる。実効的な法整備が急務だ。
阿古智子(東京大学)

ASEANの視点
対中外交の基盤となる米軍プレゼンス
米中対立の下、ASEAN諸国は国益を重視して機会主義的に動く。しかしその前提となる地域の安定には、米軍の存在が不可欠だ。その重要性を再認識しつつ、中国との関わり方を考える。
ビラハリ・カウシカン(元シンガポール外務次官)

◎トレンド2022

G20バリ・サミット 指導力発揮したインドネシア
ロシアによるウクライナ侵略後、初めてのG20首脳会合。侵略直後、国連での決議では対応が分かれた各国が、今回は首脳宣言に合意できたのはなぜか。
石井正文(学習院大学)

資料 G20バリ首脳宣言(一部抜粋)

◎FOCUS

現地報告
中間選挙で有権者が選んだもの
インフレなど経済状況が悪化する中での中間選挙、候補者は身近で実利的な論点を取り上げ、支持を訴えた。それに反応する市民もいる一方で「分断」は石のように固まってきている。選挙取材で垣間見たアメリカ人の素顔は。
中島健太郎(読売新聞)

共和党の「権威主義政党」化を止められるか
-分断・分権化だけではない2大政党政治の危機
ここ数年、米国では選挙のたびに社会の「分断」が叫ばれるが、より深刻なのは、民主主義の基礎をなす選挙のあり方そのものが挑戦を受けていることだ。背後にある2大政党の変容、特に共和党の動きに注目し、米国民主主義の危機を読み解く。
岡山 裕(慶應義塾大学)

ねじれ議会 内政と外交の連続性は
アメリカにおいて外交は大統領の専権事項にみえるが、実際は議会も大きな権能と役割を持っている。第1次大戦後から繰り返される、大統領・議会間の協力と対決を踏まえて、次期118議会の動向を展望する。
ロバート・トムキン(コングレッショナル・クォータリー)

◎続 トレンド2022

駐ブラジル大使に聞く
ルーラ次期政権がにらむ「二つの連帯」-「価値の重視」と「途上国との連携」
民主主義の大国だが、西側と一枚岩ではなく、グローバル・サウスのリーダーではあるが、中ロとは一線を画す、南米の大国ブラジル。大使を務める林氏が、その多面性を読み解き、日本の中南米外交の新たな可能性を語る。
林 禎二(駐ブラジル大使)

英スナク政権 脱ポピュリズムで安定めざす
トラス首相は財源の裏付けなき経済政策で大失敗し、後任には、ジョンソン政権で財務相を務めたスナク氏が就いた。初のアジア系、過去200年ほどで最も若い42歳。財政規律を重んじる姿勢で、国内外の信頼を取り戻そうとしている。
金成隆一(朝日新聞)

プラスチック汚染対策 条約化めざす日本の取組
海洋汚染のなかでも、近年特に注目される海洋プラスチックごみ。2019年のG20でこの問題の国際的な対応に先鞭をつけた日本は、次の一手として、汚染の防止に関する条約の策定に動いた。条約交渉で日本代表団を率いる赤堀氏が、日本の取組と今後の展望を論じる。
赤堀 毅(外務省)

戦況悪化で追い詰められるプーチン大統領-ロシア軍の立て直しは可能か?
ウクライナの攻勢に、4州併合、戒厳令施行に加え部分動員で兵力増強と国内引き締めを図るプーチン政権。だがハルキウ州およびヘルソン市からの撤退も余儀なくされ、切れる戦略カードは決して多くない。総動員か、核使用か、戦況立て直しの方向せいは。
兵頭慎治(防衛研究所)

州都ヘルソン奪還成したウクライナ
伊藤嘉彦(拓殖大学)

イタリア 右派メローニ新政権の「堅実路線」
イタリアはEUに背を向けるのか-右派政権発足でヨーロッパに走った衝撃。だが組閣では穏健派や実務に明るい閣僚が揃った。移民や難民政策、ウクライナ支援への対応など新政権がどこに向かうか、要因とともに分析する。
伊藤 武(東京大学)

連載

駐日大使は語る5
東ティモール独立から20年 弛まぬ協力が育んだ日本との絆
駐日大使は、各国の正式代表として日本に常駐する唯一の存在。大使の目に、日本外交はどう映るのか。日・東ティモール関係の20年の歩みについて、イリディオ大使に聞く。
イリディオ・シメネス・ダ・コスタ(駐日東ティモール民主共和国大使)

外務省だより

外交極秘解除文書 連載9
湾岸危機 人質解放をめぐる攻防(上)-中曽根イラク訪問の思惑と政府の懸念
山口 航(帝京大学)

キャリアの話を聞こう17
ジャーナリストからシンクタンカーへ 地政学の視点から日英同盟を進める
秋元千明(英国王立防衛安全保障研究所)

ブックレビュー
伊藤亜聖(東京大学)

新刊案内

英文目次

編集後記

イン・アンド・アウト