Vol.80 Jul./Aug. 2023

Hyoushi_Vol.80特集◎「情報戦危機」に備えよ

あなたと情報
第一次世界大戦を機に国際政治の中核的要素として登場したプロパガンダ(宣伝)。そのありようは今、電子情報技術の急速な進化に促され、大きく変化している。最先端をめぐる激しい競争の中で、先端技術のみに振り回されないための思考が求められる。
中西寛(京都大学)

座談会
戦場はスマホの中に-「ナラティブ」が情報戦の最前線
なぜ、人は偽情報を信じてしまうのか。陰謀論は、どのようにしてつくられるのか。安全保障研究者、リスクマネジメント専門家、ナラティブについて取材してきた新聞記者が情報戦の最新情報を分析、攻撃に
            強靭な社会の「かたち」を考える。
            大澤淳(中曽根平和研究所)
            川口貴久(東京海上ディ-アール)
            大治朋子(毎日新聞)

ロシア情報戦は「認知領域」を標的に
平時から常に情報戦を戦っているロシア。その戦略は「四つの標的」を狙うもの。「事実」に「理念」を載せたナラティブ拡散の効果は、そしてウクライナ側の対抗手段は。いまや、脳内の「認知領域」が戦場なのだ。
佐々木孝博(広島大学)

中国が狙う「制脳権」
人の頭の中への「認知戦」に踏み込んだ中国。「新時代における軍事戦略方針」により党が主導し、人民解放軍・政府、在外公館やメディアも動員される。AI、脳科学を取り入れて人間の脳を操作することで、制空権ならぬ「制脳権」を握ることを目指している。
土屋貴裕(京都先端科学大学)

米国が制したウクライナ情報戦-戦争の「ドライブ・レコーダー」としての公開情報
「ロシアはウクライナを侵略する」。アメリカ政府による秘密情報を使った異例の警告は、国際社会の結束と虚偽の主張への対抗につながった。情報戦は古典的手法も残しつつ、画像やSNS、そしてAIを組み合わせたステージに移る。
髙木耕一郎(ハドソン研究所)

ウクライナのPR戦略と「戦争広告代理店」
国際社会におけるウクライナへの高い支持は、大統領を前面に打ち出したPR戦略の効果も大きい。多数の欧米PR会社によって、ともすれば一面的なナラティブが作り出される構造を読み解くとともに、情報戦への防波堤としての「民主主義の成熟」を考える。
髙木徹(NHK)

中ロの選挙介入に揺れる米国
米国の国政選挙に対するロシアや中国の影響力工作は巧妙化しており、世界中のトロールを通じて数多くの偽情報が発信されている。米国政府も対策を講じているが、強力な規制には表現の自由を損ねるとの批判も根強い。両者を架橋するには何が必要か。
市原麻衣子(一橋大学)

偽情報と日米独のプラットフォーマー規制
偽情報拡散の抑止か、表現の自由か。プラットフォーマー規制は、民主主義国家の根幹で、各国の憲法で保障される表現の自由に抵触しかねない。日米独の法制の条文を具体的に検討することで、それぞれのバランスとあるべき規制を考える。
小西葉子(高知大学)

日本の「偽情報拡散」をデータで検証する-浮き彫りになる「エコーチェンバー」の存在
ツイッターでの「偽・誤情報」の拡散状況を検証すると、その速度は、言われるほど正しい情報よりも早くはないが、これらを信じ込む人たちが「エコーチェンバー」を形成、ジャンル横断的に情報を拡散していることがわかった。ファクトチェックは有効か。どんな対策が必要なのか。
鳥海不二夫(東京大学)

インテリジェンス組織構築に何が必要か
政策決定者に客観的リスクを可視化して見せ、意志遂行の判断を提供するのがインテリジェンスであり、その目的は政策決定者が国民に負う責任に貢献することだ。組織やそれを動かす仕組み、そのガバナンスを分析し、日本で展開する場合のあるべき基盤を考える。
小林良樹(明治大学)

◎ウクライナ紛争 構図は変わるのか

プリゴジン事件とロシア軍
山添博史(防衛研究所)

「不公正の是正」を求めるゼレンスキー外交-戦争長期化とウクライナ支援のあり方
松嵜英也(津田塾大学)

中国は停戦の仲介者たりうるか
三船恵美(駒澤大学)

NATOビリニュス首脳会合を検証する
戦争が長期化するなかで、世界の注目を集めたNATO首脳会議。ウクライナ加盟に大きな前進はなかったが、同国への長期的支援が明示されたほか、スウェーデン加盟やインド太平洋との関係も議論された。その成果を分析する。
鶴岡路人(慶應義塾大学)

◎広島サミットの成果と射程

広島サミットを貫いた二本の「縦糸」
国際的な課題の解決に尽力してきたG7。広島サミットでもウクライナや核軍縮・不拡散をはじめ多くの懸案が論じられたが、そこには全体を貫く二つの視点があった。シェルパとして岸田首相を支えた小野氏が、広島サミットへの戦略とその成果、今後の展望を論じる。
小野啓一(外務省)

「デリスキング」をめぐるG7の戦略と課題-広島サミットが動かした外交空間を読み解く
広島サミットでG7の対中姿勢は、デカップリングからデリスキングへと大きく転換した。新たなキーワードに込められた各国の思惑と中国の反応を踏まえ、サミット後の動向を読み解く。
薬師寺克行(東洋大学)

被爆の実相を伝え、未来志向の和解を進める
被爆地の市民として核兵器の廃絶を訴え、サミットでは各国首脳に平和記念公園を案内した松井氏が、その意義と平和への道程を語る。
松井一實(広島市長)

FOCUS◎岐路に立つ核軍縮

核軍備管理・軍縮の新しいフェーズ
冷戦期以来、米ロを中心に構築された核軍備管理。ウクライナ戦争による核兵器リスクの顕在化に加え、中国の核戦力強化が既存のレジームを揺さぶる。大国間で戦略的・原理的相違が際立つ時代に、軍備管理は概念の再構築が求められている。
秋山信将(一橋大学)

北東アジアの拡大抑止
日米韓で「ソフトウェア」の整備を進めよ
拡大抑止は、兵器の数や能力だけが問題なのではない。北東アジアに欠けていたのは、拡大抑止を十全に機能させるための同盟国間の協議メカニズムである。日米韓協調が進むこの好機に、核兵器を含む拡大抑止のソフトウェアを再構築したい。
村野将(ハドソン研究所)

中国の核戦略と西太平洋の軍事バランス
中国の軍事力は、世界第二位の軍事費支出を背景に近代化が進み、海軍力、空軍力を充実させており、特に弾道ミサイルと核弾頭の増強が急ピッチで進められている。その状況を確認し、従来の核戦略との乖離を評価し、中国が目指している新たな核戦略とは何かを考える。
飯田将史(防衛研究所)

NPT体制は再び活性化できるか
ウクライナ戦争では核兵器の使用・拡散のリスクが高まり、世界は核の脅しが横行しかねない脅威に直面する。NPT運用検討会議では最終文書が採択できず懸念が高まるが、核軍拡・拡散を防ぐ仕組みはNPT体制しかない。どうしたら合意可能なのか、再活性化の道筋は。
戸﨑洋史(日本国際問題研究所)

◎TREND2023

グローバル展開する中国主導の地域枠組み-中国・中央アジアサミットを読み解く
G7広島サミットの会期中に行われた中国主導のサミット。中国は、中央アジアの国々と協力関係を固め、さらに旧東欧とアフリカにも食指を動かしている。ウクライナ戦争をにらんでグローバル・サウスへの地歩を固めようとする中国を、グ諸国はどう見ているか。
渡辺紫乃(上智大学)

香港人留学生逮捕の衝撃-香港国安法の域外適用と言論抑圧
中国政府が言論統制の手段として活用し始めた。国内法の域外適用。海外における言論にまで網をかけようとするこの思考は、改革開放期に克服されたかに見えた「反革命闘争」の論理が、「国家安全の維持」という新たな装いをまとって現在に立ち現れたものである。
石塚迅(山梨大学)

中軸国家をめざすエルドアン外交
西洋やクルドに対する排斥的な言説で国内の統合を図るエルドアン大統領。そのポピュリスト的政治手法は、欧米との関係を冷えこませてきた一方、ロシアとの特殊な関係構築や、中東全体のアメリカ離れの潮流と相まって、トルコ外交に独自の存在感をもたらしている。
澤江史子(上智大学)

朝鮮戦争とは何だったのか-休戦70年の視点から
アジアにおける冷戦を決定づけ、その後の北東アジア情勢に深刻な影響を与え続けた朝鮮戦争。同盟なき抑止の限界、体制間競争における制約要因としての軍事、北朝鮮の核保有と米韓同盟の再活性化など、現代に連なる論点から、その意味を読み解く。
小此木政夫(慶應義塾大学)

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高橋和宏(法政大学)

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