Vol.87 Sep./Oct. 2024

Vol.87_hyoushi_page-0001巻頭

岸田外交の評価と次代への課題
岸田政権の三年を振り返ると、ウクライナ支援、安保三文書、G7広島サミット、日韓関係と、外交面での成果は大きい。次なる段階に臨む新首相は、外交と経済が交錯する新領域への戦略が不可欠だ。
中西寛(京都大学)

「ハリス対トランプ」で何が問われるか

「大統領候補ハリス」と民主党の分断-民主党大会から見えるアメリカ社会の断層
副大統領にして、歓迎されざる大統領候補。ハリスの勝ち目は、やはり社会の分断と民主党の「左傾化」なのか。
・アメリカの「文化的ねじれ」がもたらす分断
・バイデンはハリスへの神話でレガシーを狙ったか
・予備選を勝ち抜いていないハリスの勝算は
渡辺将人(慶應義塾大学)

民主・共和の拮抗状況は続くか-政党政治の変容過程からみた民主党の候補者交代劇
かつて多数派を占めた民主党は、なぜ後退してきたのか。米国の政党を「支持勢力の連合体」と捉える視点から読み解く。
・「リベラル+南部の白人」連合は前世紀後半に解体
・保守的な白人労働者層は二〇世紀末から民主党離れへ
・「トランプは現実的、民主党は極端」のイメージで割を食う
岡山裕(慶應義塾大学)

MAGAに傾く保守系シンクタンク
二〇一六年大統領選とはうらはらに、トランプ候補は保守系シンクタンクの手厚い支援を受けている。
・MAGA派シンクタンクが競うトランプ政権構想
・原理原則よりも「政権へのアクセス」が魅力
・ハリス候補もリベラル派シンクタンクと関係が深い
宮田智之(帝京大学)

 
特集◎ガザ紛争一年 膠着する中東情勢

インタビュー◎現地からの発信
生命、建物、そして共同体を奪われたガザ-「ポリオ・ワクチン後」を見据えた医療体制改善の展望
多くの生活習慣病患者に加え、感染症患者が増加するガザ。ポリオ・ワクチン一次接種の成功は明るい兆しだが、医療体制は崩壊したままで、薬剤不足も深刻だ。UNRWA保険局長の清田氏が、医療面からみたガザ危機の真相を語る。
清田明宏(国際連合パレスチナ難民救済事業機関)

座談会
ガザ紛争は極限状態 展望なき出口戦略
突然の攻撃、完膚なきまでの過剰な反撃、人道危機。いま、事態はエスカレーションし続けている。イスラエル、ハマスをはじめ中東のアクターの行動を歴史的、地域的動向をも踏まえて分析する。
中村覚(神戸大学)
江﨑智絵(防衛大学校)
錦田愛子(慶應義塾大学)
坂梨祥(日本エネルギー経済研究所)

ネタニヤフ政権「三つどもえ」の争い-政軍・聖俗の対立の一方で高まる国民の抗議
「ハマス殲滅まで徹底的に戦う」ネタニヤフ首相に対する反発が強まる。果たして停戦は実現できるか。
・政権維持を狙うネタニヤフ首相と極右勢力と軍が対立
・軍事技術の高度化がシビリアン・コントロールを不全に
・宗教シオニズムが右派と結びついて強硬論を主張
池田明史(東洋英和女学院大学)

パレスチナはどのように「統治」されてきたか-自治政府とハマス10・7への歴史的前提
パレスチナ統治の困難さは、複雑な国際情勢に加え、自治政府の制度的制約と能力的限界によるところが大きい。
・オスロ合意で自治政府は暫定統治機構という位置づけ
・汚職や民主的ガバナンスの欠如で、人の信頼を失う
・ハマスが統治するガザは、強力な封鎖で慢性的な人道危機
山本健介(静岡県立大学)

イラン・ペゼシュキアン新政権の対話と報復の力学-抑制的対応はいつまで続くか
対話重視のイラン新政権にとって、七月のハマス司令官殺害への報復が試金石となりそうだ。
・この一年、イスラエルからの挑発には抑制的対応
・ペゼシュキアン新政権の「静観」は外交重視の表れ
・「代理勢力」や中ロと連携深めるが、一枚岩ではない。
田中浩一郎(慶應義塾大学)

中東戦略「現状維持」に固執し続ける米国-中東地域や大統領選挙に大きな影響が
パレスチナ軽視の「ステイタス・クオ」(現状)維持に異議申し立てを突きつけられた米国だが、後戻りはできない。
・アブラハム合意は、米国の撤収と関与継続を狙ったもの
・オバマとトランプ、手法は異なるが政策の本質は同じ
・ハリス候補はステイタス・クオ維持によって苦戦の可能性
泉淳(東京国際大学)

トルコがガザに介入する可能性はあるか
エルドアン大統領は、言明通りガザに介入するのか。トルコの論理と生じるリスクなどから考える。
・過去の介入は直接の利害とリスクを考慮して行われた
・ウクライナ危機で展開した仲介外交はあり得るのか
・側面からの働きかけが現実的な対応ではないか
今井宏平(ジェトロ・アジア経済研究所)

多角化と重層化が進むインドの中東関与
台頭するインドは南アジアの外縁を「拡大近隣」と位置づけ、関与を深めている。中東もその一つだ。
・歴史的には資源と出稼ぎ労働者を通じて関係を深める
・イスラエルとアラブ諸国双方と防衛協力が進行中
・近年はイラン経由の「コネクティビティ」拡大に意欲的
笠井亮平(岐阜女子大学)

FOCUS◎中国経済「不安定化」の構図

「三中全会」にみる習近平経済政策の変容
成長メカニズムの転換、格差是正、安全と発展のバランス。習政権「三つの経済的課題」の重点が変わりつつある。
・米中対立激化などを受けた「安全重視」を強める
・成長力を取り戻すための構造改革は今なお模索中
・「安全重視」と「痛みを伴う改革」は両立できるか
伊藤信悟(国際経済研究所)

世界EV競争に見る中国企業のイノベーション
EV化で中国企業が狙うのは自動車設計思想・製造体系のイノベーションだ。それを政府が「見える手」で下支えする。
・中国メーカーは顧客体験のリ・デザインで商品価値を変革する
・生成AIの利用によって開発スピードが「爆速」に
・官民ファンドの柔軟な資金提供がイノベーションを促す
李澤建(大阪産業大学)

中国の地方政府財政 「土地頼み」から抜け出せるか
中国経済の不透明さは、地方経済、特に地方政府の財政問題に拠るところが大きい。
・不動産バブル崩壊で、企業の資金需要は頭打ち
・土地使用権の譲渡に頼った地方政府の開発政策は限界に
・地方財政の実情を踏まえ、中央・地方関係の再構築が必要
岡嵜久実子(キャノングローバル戦略研究所)

「現場」なき中国研究への回帰か?-アメリカ・中国への関心低下と分析手法の変化
米中対立のなか、いかに米国は中国を分析しているのか。二年間、ハーバード大学に滞在した筆者が体感したのは、
系統的なデータ収集と高度な解析の潮流だ。
伊藤亜聖(東京大学)

◎around the world

ペートンターン新首相就任-タイ政治の地殻変動
浅見靖仁(法政大学)

◎トレンド2024

バングラデッシュ ハシナ長期政権を倒した学生反乱
国内に経済成長をもたらし、通算で二〇年の長期政権を誇ったハシナ政権は、なぜ崩壊したのか。
・背景には独立戦争に連なる二大勢力の対立がある
・反政府運動の争点は公務員採用を巡る「クォータ制」
・外交の柱となるインドとの緊密な関係は見直しつつ継続へ
村山真弓(ジェトロ・アジア経済研究所)

コロナ禍後の太平洋・島サミット成果と課題
コロナ禍やウクライナ侵攻、そして気候変動への対応が、島嶼国の意識とスタンスに影響を与えている・
・ワクチン供給や観光客送客で旧宗主国の重みを認識
・ウクライナ侵攻で安全保障意識が強まる
・インドや韓国も参入、日本の関与について再確認が必要
黒崎岳大(東海大学)

EU「リスク発送」のAI規制戦略
AI技術の発達か、個人の権利保護か、EUは立法にリスク発想を取り入れて、両者の調和を図っている。
・AI規制は既成のEU規則や各国法を補完する立て付け
・頭ごなしに規制せず、権利保護と技術のバランスを重視
・日本の立法においては明文化による価値観の提示が重要
加藤尚徳(KDDI総合研究所)

求められる国連安保理改革の「戦略転換」-ウクライナ・ガザがつきつけるもの
安保理の意思決定機能がマヒする中で、国際協調の精神を拡大する国連改革が必要だ。
・複数ある改革案の隔たりは大きく、合意形成は困難
・非常任理事国の拡大と常任理事国の拒否権が焦点
・日本は国連で力が縮小する現実を踏まえよ
神余隆博(元国連大使・次席常駐代表)

岐路にたつ国際人道支援-紛争地における赤十字の役割
紛争下での人道支援の重要性は明らかだが、近年、紛争の性質が変容したことで、新しい課題に直面している。
・紛争の都市化やAIの活用などで従来の支援活動が困難に
・国際人道法に対する理解の欠如や恣意的解釈に強い危機感
・日本には多国間外交とODAを通じた指導的役割を期待
榛澤祥子(赤十字国際委員会駐日代表)

追悼 アルベルト・フジモリ元ペルー大統領
急ぎすぎた改革者の功罪
遅野井茂雄(筑波大学)

連載

Book Review
徳地秀士(平和・安全保障研究所)

新刊案内

インフォメーション

外務省だより

英文目次

編集後記

イン・アンド・アウト