トランプ再選と政党政治の機能不全-「分極と僅差」の構造を読み解く
大統領選の挑戦と多数党の交代が常態化する近年の政治的傾向をみれば、「トリプルレッド」は意外ではない。二年後、四年後は異なる政治状況が生まれる可能性も。分極化を背景として、選挙結果が僅差のゆえに対立が激化する米国政治の構造を踏まえ、長期的視点に立った対応が重要だ。
待鳥聡史(京都大学)
座談会
同盟の変容と流動化する国際秩序
来月発足するトランプ第二期政権は、アメリカ外交の伝統から逸脱した国際秩序観や同盟観を持つ。西側の連携を崩しかねない外交姿勢に、われわれはどう対応すべきか。
佐橋亮(東京大学)
鶴岡路人(慶應義塾大学)
渡部恒雄(笹川平和財団)
飯塚恵子(読売新聞)
日米二つの対立軸「同盟と関税」
トランプ政権内にくすぶる路線対立。決着の行方は不明だが、混乱が生じれば、同盟国は大きな影響を受ける。
・「世界関与」と「関税」をめぐる内部対立が政権内で深刻化
・いずれも焦点は中国。日本はその動向を踏まえた対応が必要
・首脳間の個人的関係構築は理想だが、簡単ではない
ザック・クーパー(エンタープライズ研究所)
新政権のキーパーソンたち
第一次政権の「失敗」を教訓に、トランプ氏は第二次政権の人事を迅速に進めている。いかにもトランプ的な人選と、その背景にある政権のリーダーシップのあり方を読み解く。
吉村亮太(米州住友商事会社)
「圧勝」ではなかった大統領選挙 何が勝敗を分けたのか
「票差は僅差、トランプは接戦州で健闘」のデータは語る。浮かび上がってきたのは、米社会の「新たな分断」だった。
・接戦州で力強さを発揮したトランプ氏
・トランプ男性票は伸びたが、ハリス女性票は伸びず
・「分断して支持を固める」トランプ選挙戦略が勝利
前嶋和弘(上智大学)
情報戦は社会の「分断」を狙った-ロシア、中国、イランによる大統領選挙影響工作
過去最大規模の影響工作。どのように行われたのか。プレーヤーとその手法とは。選挙に与えた影響は。
・ロシア・中国・イランの目的は同一ではなかった
・なりすましサイトや生成AIが攻撃に活用された
・「社会の分断線」が狙われる。克服する信頼感情勢を
市原麻衣子(一橋大学)
対中強硬外交で進むデカップリング
米国の対中強硬姿勢は第二期トランプ政権でも継続され、米中間はデカップリングに向かうだろう。
・新政権では、重要な外交ポストに対中強硬派が就任
・中国は報復措置や経済自立化で対抗
・米国の同盟国は、トランプ政権との距離によって影響異なる
リリー・マケルウィー(CSIS)
どう受け継ぐ 日米韓安全保障協力-トランプ2・0とインド太平洋戦略の課題
バイデン政権期に強化されてきた日米韓の枠組みは、「トランプ2・0」で漂流する危険はないか。
・インド太平洋戦略を前提に、日米韓協力は「制度化」
・トランプ政権で、協力の位置付けは変わる可能性も
・まずは日韓関係の安定強化を図り、土台としたい
阪田恭代(神田外語大学)
「トランプノミクス2・0」への期待と不安-インフレ、雇用、通商と日本への影響
減税、規制緩和と高関税化。移民への大幅な制限。トランプ経済政策は、好景気の米経済と日本にどんな影響が。
・減税は金利上昇、米国債格下げ、財源問題に懸念が
・関税引き上げは消費物価上昇とデフレのリスクに
・高関税と米景気後退が重なれば日本経済に悪影響が
小野亮(みずほリサーチ&テクノロジーズ)
FOCUS◎BRICS拡大の力学
拡大BRICSへのアプローチ
バランサーとしての日本への期待
今年に入り、9ヵ国に拡大したBRICS。「反西側」勢力の結集との見方もあるが、多くの地域大国・開発途上国は西側と中ロの一方に与することはない。日本は大国視点の二元論を排し、各国の実情を踏まえた「バランサー」の役割が期待される。
川島真(東京大学)
ロシアが描く「世界の多数派」戦略-ヴァルダイ会議で示される「プーチンの世界像」
ロシアは、非西側勢力を「世界の多数派」と捉え、BRICSを軸とした結束を図ろうとしている。
・ヴァルダイ会議の対象は西側との対話から非西側諸国へ
・「西側諸国は少数派であり、縮小している」と主張
・中国とは同室でなく、あくまで温度差があると認識
畔蒜泰助(笹川平和財団)
モディ政権「戦略的自律」外交のゆくえ-拡大BRICSにおけるグローバル・サウス外交
経済成長を背景に「全方位外交」を進める。「グローバル・サウスのリーダー」として発言力を高める。
・BRICSでのインドと中国の立場は異なる
・トランプ政権誕生による世界の多極化を好機と捉える
・インドに期待される「途上国反米化の阻止役」
近藤正規(国際基督教大学)
拡大BRICSを警戒するブラジル
BRICSに思い入れあるルーラ大統領は強権主義的なベネズエラの拡大BRICSパートナー国加入を警戒。そのかじ取りは。
・ルーラ氏はベネズエラに民主的体制が必要だとしている
・統一地方選で中道や右派が伸長。左派のルーラ氏に危機感か
・二〇二五年、BRICS議長国の役目で存在感の発揮を
宮本英威(日本経済新聞)
二極化・多極化か マレーシアのBRICS戦略
「新しい成長センター」マレーシアは、経済の多様化で独自の地位を確立したい。BRICS加盟もその一環だ。
・最大の投資国アメリカの一国主義には従わない意向
・グローバル・ガバナンスの民主化のためのBRICS加盟
・多極化を目指すことで、埋没を避けたいという考えも
鈴木絢女(立教大学)
石破政権の外交課題
「同盟」の意義、トランプ2・0でも訴えよ
来年一月発足のトランプ2・0政権に備え、石破外交は体制強化が求められる。
・総裁選時の持論は封印し、安倍・岸田路線を踏襲
・多国間・少数国間の枠組みを日本が牽引
・四大臣会合を強化し、首脳外交を支える
飯塚恵子(読売新聞)
特別寄稿
核をめぐる知性と理性
日本被団協のノーベル平和賞受賞に思う
秋山信将(一橋大学)
FOCUS◎レバノン 崩れた「暗黙の抑止」
イスラエル「多正面作戦」の狙い-米大統領選後のネタニヤフ政権
「断固たる態度」「決意」を示すことからエスカレーションへ。イスラエルはまだ「シグナル」を発する段階なのか
・ハニヤ氏殺害は「高い代償を払わせる」メッセージ
・対ヒズボラ攻撃はイスラエルの「弱さ」への反発か
・トランプ政権を歓迎するが、和平について懸念も
辻田俊哉(大阪大学)
岐路にたたされるヒズボラと「抵抗の枢軸」
三〇年以上エスカレーションを避けてきたナスララ書記長が殺害。卓越した「手腕」はなぜ効かなくなったのか。
・イスラエルとの暗黙の抑止ルールはなぜ破られたか
・ポケベル爆弾などイスラエルの挑発がきっかけに
・イスラエルへの「抵抗勢力」は、各地で退却戦を強いられている。
末近浩太(立命館大学)
独ショルツ連立政権の崩壊-深刻化する構造的危機
発足から三年、ショルツ連立政権が崩壊した。政局混乱の根底には、ドイツ政治の構造問題がある。
・もともと政策的距離が大きかった自由民主党が離脱
・連立政権の制約要因となった「債務ブレーキ」
・次期政権においても、財政均衡の緩和問題は争点に
三好範英(ジャーナリスト)
日本の中央アジア外交戦略はどうあるべきか-創造的なミドルパワー外交の構築へ
「南海トラフ地震注意情報」による岸田首相中央アジア歴訪中止は痛恨事。「中央アジア+日本」がこれから構築すべき関係性は。
・中ロに接する日本と中央アジアとの関係は地政学上重要
・ロシアと関係は深いが一線を画する二面性がある
・日本は中小国と協調し、「強力ミドルパワー」を発揮すべき
宇山智彦(北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター)
「強権」ベネズエラに中年米諸国の「いら立ち」
マドゥーロ政権は今回の大統領選挙も野党勢力を抑圧し長期政権を樹立。近隣諸国は強権化のゆくえを心配する。
・大統領選挙開票状況を公表せず。対立候補は国外亡命
・議会分裂で大統領二名が正統性を争うなど国政は混乱続く
・権威主義国ネットワークに入ることを周辺国は懸念
浦部浩之(獨協大学)
スーダン内戦の深刻な人道危機-紛争を助長する諸外国の思惑
「民族浄化」をはじめ、大規模な人道危機が進行中だ。食糧危機やレイプなどが「武器」として使われている。
・発端は国軍と準軍事組織の争いとイスラム主義の復活
・地下資源・水資源の思惑で諸外国が紛争を支援
・トランプ新政権は関与低下の見込み。日本は貢献を
坂根宏治(元JICA平和構築室長・スーダン事務所長)
虐殺から三〇年 ルワンダ「奇跡」後の展望
一九九四年の虐殺の悲劇後、強い指導力で国内融和と経済成長を牽引したカガメ大統領。そのプロセスと残された課題を読み解く。
・エスニックの区別を廃止して和解を勧めるが、国民には不満も
・経済成長、格差是正、強力な政府-モデルはシンガポール
・最大の課題は後継者問題
甲斐信好(拓殖大学)
連載
外務省だより
インフォメーション
Book Review
多くの証言で再構築された長期政権の実像
藤田直央(朝日新聞)
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編集後記
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