Vol.89 Jan./Feb. 2025

Vol.89_Hyoushi巻頭対談◎二〇二五年の日本外交
「対話と協調」で懸案解決に臨む
岩屋毅(外務大臣)
細谷雄一(慶應義塾大学・本誌編集委員長)

 
特集◎「相互拒否」が世界を覆う

Part1 「民主主義」に走る活断層

韓国憲政史における「12・3戒厳」
戒厳令発動とその後の騒動は、韓国社会を覆う分裂と相互拒否が政治をも左右していることをはしなくも示す。
・民主化後、権力分散した韓国憲政秩序が問われている
・「二つの国民」への分極、包摂すべき政治が機能不全に・
・「分断のことば」を「歩み寄りのことば」にできるか
浅羽祐樹(同志社大学)

トランプとオバマは「合わせ鏡」-「ワシントン・コンセンサス」の終焉と社会の分断
トランプ再選はグローバリズム・リベラル国際秩序の否定。歴史を見ると、オバマ政権誕生も同じ様相を呈していた。
・トランプ当選は米社会の逸脱ではなくパラダイム・シフト
・一九二〇年代アメリカ第一主義に似たMAGA
・オバマこそが「アメリカ・ファースト」のさきがけか
渡辺靖(慶應義塾大学)

米連邦議会とトランプの「政略結婚」-「トリプル・レッド」でも簡単ではない議会運営
トランプ党化した共和党が上下両院で多数を占める状況だが、政権の政策遂行にはいくつかのハードルがありそうだ。
・ほぼ保守派となった共和党下院も、議員の理念や政策には幅がある
・重要政策では、上院の「フィリバスター」回避がカギ
・二〇二八年に向けた共和・民主両党の注目人物も紹介
ロバート・トムキン(コングレッショナル・クォータリー)

EUフォン・デア・ライエン新体制の「重い課題」
トランプ2・0や安全保障環境悪化を念頭に、新体制は地政学的主体性を重視。独仏の力が衰えたEUを誰が駆動させるのか。
・新体制は経済安保、入国管理、防衛作業に重点
・右派極右勢力対等のなか、EUの結束が問われる
・独仏に代わってポーランドが影響力を増すか
臼井陽一郎(新潟国際情報大学)

極右政治家ジャン・マリ・ルペンの死-FN/RN台頭に見る右翼ナショナリズム変容の論理
フランス極右勢力の政治的な礎をつくったルペン氏。彼の極端な排外的主張は、なぜ受容されていったのか。
・七二年の結党期から直接行動とともに議会を重視
・貧者、庶民、労働者のための政党へと脱皮を図る
・娘マリーヌが進める「ライシテ」による反移民の論理が浸透
渡邊啓貴(帝京大学)

ジョージア 強権化するロシアに融和的な政権の「戦略」
議会選挙の不正が疑われ、EU加盟プロセス停止宣言など強権的な与党GD政権だが独特の「バランス感覚」がある。
・政権は欧米に強硬姿勢、対して大規模抗議行動広がる
・あくまでロシアとの一戦は引き、自ら強権化した側面も
・EU加盟保留は時限付き。政権は世界情勢の模様眺めか
廣瀬陽子(慶應義塾大学)

モルドバとルーマニア ロシアの工作に揺れるウクライナの隣国
ウクライナに接する東欧諸国の選挙へのロシアへの影響工作。前駐モルドバ大使が民主主義制度への工作と政治状況を分断。
・親ロ派の伸長で欧州統合路線への影響が懸念される
・モルドバで現職大統領苦戦。耕作に加え独立時の分断深化か
・ルーマニアは選挙やり直し。ロシアはハンガリー化を狙うか
片山芳宏(前駐モルドバ大使)

トルドー政権九年の政治的決算
九年の任期を終えようとしているトルドー政権。父も首相を務めたスター政治家の評価とは。
・内政面ではリベラルな政策を遂行し評価
・外交面では中国やインドとの関係悪化が目立つ
・次期政権は、関税問題でトランプ政権に対峙できるか
河﨑剛(サイモン・フレイザー大学)

 
Part2 終わらない戦争 中東・ウクライナから見る

中東秩序再編 主導権握るイスラエル
イスラエルの大規模軍事攻撃が秩序再編の引き金に。中東情勢はイスラエル・トルコの二強体制となるか。
・アサド政権崩壊でトルコが影響力を拡大。イランは後退
・アラブ諸国は、地域大国イスラエルとの関係強化に動く
・ミニラテラル化、アドホック化する意思決定に対応を
池内恵(東京大学)

戦時下で変貌を遂げるロシア軍
通常戦力と核戦力を強化し、核使用を示唆するロシアは、ウクライナ戦勝利に加え長期的な西側との対立を考えている。
・戦力拡大は西側・NATOを仮想的とする思考による
・核ドクトリン文書改訂で下がった核使用の敷居
・戦争終結「条件」のレートは上がり、長期化もあり得る
小泉悠(東京大学)

ロシアに急接近 北朝鮮「派兵」の論理
北朝鮮の軍部隊派遣の目的は米国を屈服させる「大戦略」で経済的利益は二の次。ウクライナ戦争派兵の意味は。
・過去五〇年に五二ヵ国への軍事支援の実績が
・北朝鮮は「負け戦には加担しない」
・今後も「帝国主義対反帝国主義」が行動原理に
宮本悟(聖学院大学)

アサド政権崩壊とシリアの未来
アサド政権はなぜ崩壊したのか。新たに政権を担うシャーム解放機構(HTS)とは。不確実な新時代を見通す。
・権威主義統治と経済が崩壊したのが政権崩壊の原因
・HTSは実利的に反体制派を再編成。トルコも支援
・統治の安定と中東諸国・諸勢力との調整ができるか
溝渕正季(明治学院大学)

ヨルダンでガザ紛争と平和構築を探る-紛争終結の形とトランプ復活、そして日本の役割
近隣アラブ諸国ではイスラエルへの怒りが渦巻く一方で、「出口」も模索される。それらの動きをヨルダンに見る。
・ネタニヤフの保身と極右との結びつきが長期化の原因
・さまざまな停戦・復興案が議論されている
・日本は「自立と安定」に向けた支援を続けるべき
東大作(上智大学)

 
Part3 問われる日本外交の戦略

日米関係 防衛力増強と拡大抑止への覚悟を
第二期トランプ政権は対中強硬派が外交を担うが、同盟国の日本にも応分の負担を求めてくる。
・防衛力整備はGDP二%を超える負担も覚悟すべし
・核問題を避けてきた日本。拡大抑止に政治家が関与すべし
・関税問題と防衛問題のリンクに注意すべし
兼原信克(同志社大学)

座談会
グローバス・サウスは国際秩序を担えるか-インド太平洋の「成長」と「安定」の再定義
トランプ第二政権で懸念される「空白」。安全保障面・経済面双方でのリスクが高まる。インド太平洋の地域大国は、国際秩序の何を変えようとしているのか。日本はグローバル・サウスと協調していけるか。
石井正文(学習院大学)
伊藤融(防衛大学校)
大庭三枝(神奈川大学)

増強される中国の核戦力と「戦略的抑止」
核弾頭や弾道ミサイルの増強に注力する中国。冷戦後から大変貌の「戦略的抑止力」概念に中国の脅威認識が透ける。
・二〇三〇年までに核弾頭は一〇〇〇発以上に
・「多手段による戦略的抑止体系」による施策
・対米「戦略的安定」をつくれない中国の焦りが反映
増田雅之(防衛研究所)

南シナ海の中比対立がもたらすジレンマ
中国は南シナ海で高強度の非軍事的圧力をフィリピンにかけ、台湾支援につながる米比同盟が高くつくとアピール。
・中国は高圧放水銃やレーザー照射で比沿岸警備隊を圧迫
・日米の支援・日米比三ヵ国の結束にも中国はひるまない
・沿岸警備隊対処が唯一のエスカレーション回避の選択肢
毛利亜樹(筑波大学)

COP29途上国の不満と「トランプ2・0」
気象災害が増えるなかでも先進国と途上国の対立が続く。トランプ就任を控え、実効策をいかに合意に導くか。
・途上国は「先進国が身勝手な決定を」と失望した
・合意にこぎ着ける三つの必要条件が働かなかった
・トランプ政権が背を向けた後、イニシアチブを握るのは
関山健(京都大学)

日本の伝統的酒造り ユネスコ無形文化遺産登録-文化外交の戦略的意味を考える
日本の伝統的酒造りの無形文化遺産登録は、観光や産業促進の効果を超え、戦略的な意味を持ちうる。
・ユネスコの理念は、政治経済の利害調整とは異なる平和の希求にある
・近代合理主義の行き過ぎがもたらす対立の克服に文化は有効なツール
・日本は、地政学の次元を超えた理念や価値を世界的に発信すべし
近藤誠一(元文化庁長官)

追悼・カーター元米国大統領
公共への奉仕を続けた「史上最高の大統領経験者」
村田晃嗣(同志社大学)

 
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外務省だより

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通説を覆して明らかになる七四年の「愛憎」の実相
石井明(東京大学)

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