外交 Vol. 31

外交vol.312015年5月31日発売

特集
新しい開発協力と日本の外交戦略
     
財政難の時代、かつての日本外交の輝ける政策手段だったODAが、国民からの厳しい視線にさらされている。いま、なぜ、ODAが必要なのか。根本に立ち返った議論が求められている。

開発協力が生み出す国力と国益
田中明彦(JICA理事長)
世界の開発途上国を支援し、共に発展を目指してきた日本。ODAを取り巻く環境が変化していくなかで、国際社会の繁栄・平和と日本の「国益」の両立を模索していく必要がある。

和解と成長のアジアへ――戦後外交における経済援助
宮城大蔵(上智大学)
戦後、日本と発展途上国をつなげた政府開発援助。始点において戦後処理の側面を持ち、冷戦下における経済大国としての役割など、ODAは常に日本と国際社会との関係を反映していた。その政治的意味を振り返るとともに、ポストODA時代の対アジア関係を模索する。

「共創」と「競争」の時代への新戦略
大野泉(政策研究大学院大学)
開発協力は「新しい時代」を迎えた。開発競争の激戦区アジアで、今後日本はどのように」発展すべきか。パートナーシップのあり方を提言する。

座談会◎開発協力大綱の理念と課題
荒木光弥(国際ジャーナル社)×定松栄一(国際協力NGOセンター)×西田一平太(東京財団)
国益、官民連携、質の高い成長、軍隊への民生支援など、論点の多い新大綱を、ジャーナリズム、NGO、アカデミズムの立場から語りつくす。

開発協力の最前線1 フィリピン・ミンダナオ和平プロセス
30余年の戦闘に終止符 自治政府の設立を強力にサポート

包括的和平合意を受けて新たな自治政府の誕生が待たれるミンダナオ西部や島嶼部の紛争影響地域。しかし政府は1日にしてならず。さまざまな政治的プロセスに加え制度設計から職業訓練、コミュニティ開発に至るまで、多くの分野で協力が進んでいる。

開発協力の最前線2 ミャンマー・ティラワ経済特区
オール・イン・ワンの国策プロジェクト

高瀬文人
民間投資を刺激し、国債水準のコンプライアンスでリスクを下げる―。ソフト面のサポートまで含めた取り組みがこれだけ短期に進められたことに、日本の経済界からも驚きの声が上がっている。

人道危機に更なるシフトチェンジを
マイケル・リンデンバウアー(UNHCR駐日事務所代表)
いま世界では、5100万人を超える人が紛争や人権侵害に苦しんでいる。救援物資を届けるだけでは、状況は変わらない。日本のイニシアティブに期待する、国際機関からのメッセージ。

資料「開発協力大綱」を読み解く

Trend2015

AIIBで試される大国中国の度量と器量
柯隆(富士通総研)
中国のアジアインフラ投資銀行(AIIB)が、いよいよ活動を開始する。影響力を増しつつある中国が同銀行を設立に動いた事情は?そして、日本はどう向き合うべきなのだろうか?

再考迫られる米の対イスラエル政策――和平案否定ネタニヤフの勝利
船津靖(共同通信)
ネタニヤフ首相とオバマ大統領。生い立ちも思想も異なる両者が、米国政局をも巻き込んで火花を散らしている。ネタニヤフの強硬路線は、アメリカの中東政策転換の引き金となるのか。

ドイツ対日歴史認識報道の国内的背景
三好範英(読売新聞)
日本に対して好意的に思う人が26パーセント‐ 中国、韓国に次ぐ、この低い数字は、なぜ生まれたのか。歴史認識報道に特化した安倍政権への批判的報道の背景に、ドイツメディアにおける「贖罪のイデオロギー化」を読み取る。

リー・クアンユーの思い出――国家サバイバルの要諦はプラグマティズムにあり
トム・プレート(元LAタイムズコラムニスト)
世界でも稀有な都市国家シンガポールを31年間導き、建国の父として愛されたリー・クアンユー。彼が残した遺産とは何か。

栗山尚一の「二つの戦後」
中島琢麿(龍谷大学準教授)
外務省の主流を歩み、外交実務において戦後の平和主義を体現した外交官、栗山尚一。生前、長時間のインタビューを行った気鋭の研究者による追悼エッセイ。

FOCUS
動揺する中東地域

4年前のあの熱気はなんだったのか‐。相次ぐ政変と内戦に加え、さらにイラン核交渉の進展、イスラエルと米国との関係のぎくしゃくが、この地域の大きな地殻変動を予感させる。ボコ・ハラムが台頭するナイジェリアを含め、各国の情勢を冷静に読み解きながら、複雑な連立方程式を解きほぐす。

中東不安定化の構図――多層化する紛争の行方
出川展恒(NHK)
「アラブの春」は短かった。政変後の民主化や国民の統合はうまく進まず、混乱のなかでISななどの武装集団が台頭。他方で、イランの核問題やイエメン情勢次第では、中東の秩序にさらなる大変動が生まれるかもしれない。

「六つ巴」のイエメンに絡めとられるサウジアラビア
保坂修司(日本エネルギー経済研究所)
20世紀初頭以来、複雑な隣国関係を積み重ねてきたサウジアラビアとイエメン。動揺するイエメンの体制はサウジアラビアにとっても対岸の火事とはいえない。

「中心国外交」で深まるトルコ像の相克
今井宏平(日本学術振興会)
アジアとヨーロッパの懸け橋として重要な役割を担ってきたトルコ。そのトルコが今、批判に晒されている。激動の中東情勢を前に、今後のトルコ外交はどこに向かうのだろうか?

治安より経済優先のナイジェリア新政権
望月克哉(東洋英和女学院大学)
武装勢力「ボコ・ハラム」による拉致事件で耳目を集めたナイジェリア。人口1億7000万人超とされる人口大国にとっての喫緊の課題は、治安の回復よりも、まず国内経済の立て直しである。今年三月の大統領選挙の背景を探る。

連載

巻頭インタビュー
平和と開発のための原子力

天野之弥(IAEA事務局長)

漫画をみれば世界がわかる
西川恵

見出しで学ぶニュース英語
徳川家広

海風陸風(エッセイ)
文化遺産の破壊とは何か  山内和也(東京文化財研究所)
キューバ系新世代の生き方  山岡加奈子(アジア経済研究所)
ロシア周辺国に選択  大野正美(朝日新聞)
マーケットの眼 伊藤洋一(エコノミスト)

ブックレビュー
中島岳志「下中弥三郎」「アジア主義」
選評・梶谷懐(神戸大学)